トランプ政権が2018年に発動した鉄鋼・アルミニウム関税(通商拡大法232条に基づく)は、当初、ほぼすべての国を対象としていました。しかし、その後、いくつかの国に対しては適用除外措置が講じられました。ここでは、関税が発動された当初の対象国と、その後の適用除外措置、そして関税の影響について詳しく解説します。
当初の対象国
2018年3月、トランプ政権は鉄鋼とアルミニウムの輸入に対してそれぞれ25%と10%の関税を課すことを発表しました。この関税は、安全保障上の脅威を理由に、通商拡大法232条に基づいて発動されました。当初、この関税は、世界中のほぼすべての国からの鉄鋼・アルミニウム輸入に適用されるものでした。
適用除外措置
しかし、関税発動後、アメリカ合衆国はいくつかの国との間で交渉を行い、これらの国に対しては関税の適用除外措置を講じました。これらの交渉は、主にアメリカの同盟国や、アメリカの鉄鋼・アルミニウム需要を満たす上で重要な役割を果たしている国々との間で行われました。
具体的には、以下の国々が適用除外の対象となりました。
カナダ:アメリカにとって最大の貿易相手国の一つであり、鉄鋼・アルミニウム貿易においても重要なパートナーでした。北米自由貿易協定(NAFTA、現在のUSMCA)の再交渉の一環として、当初は関税が適用されましたが、その後、合意に基づき適用除外となりました。
メキシコ:カナダと同様に、NAFTAのメンバーであり、アメリカとの間で緊密な貿易関係がありました。カナダと同様の経緯で適用除外となりました。
欧州連合(EU):当初は関税の対象となりましたが、アメリカとの間で貿易交渉が行われ、一定の輸入量制限(クオータ)を設けることを条件に適用除外となりました。EUは、アメリカにとって重要な同盟国であり、貿易関係も深いため、適用除外は必然的な流れでした。
韓国:アメリカとの間で二国間貿易協定(米韓FTA)の改定交渉が行われ、その結果、鉄鋼の輸入量制限を設けることで関税の適用除外となりました。韓国は、アメリカにとって重要な安全保障上のパートナーでもあり、貿易関係も深いため、適用除外は戦略的な判断でした。
オーストラリア:アメリカの緊密な同盟国であり、安全保障上の協力関係も強いため、当初から比較的早期に適用除外が決定されました。
アルゼンチン:アメリカとの間で貿易交渉が行われ、鉄鋼・アルミニウムの輸入量制限を設けることで適用除外となりました。

ブラジル:同様に、アメリカとの間で貿易交渉が行われ、鉄鋼・アルミニウムの輸入量制限を設けることで適用除外となりました。
主な対象国
上記の適用除外措置の結果、関税が継続して適用された主な国は以下の通りです。
中国:トランプ政権は、中国を貿易慣行における不公正な行為の最大の標的と見なしており、鉄鋼・アルミニウム関税もその一環として適用されました。中国からの鉄鋼・アルミニウム輸入は、アメリカの国内産業に脅威を与えていると主張されました。
日本:当初は適用除外とはならず、アメリカとの間で交渉が続けられました。その後、2022年に一定の輸入量制限を設けることで関税の適用除外となりました。
関税の影響
鉄鋼・アルミニウム関税は、アメリカ経済、特に鉄鋼・アルミニウムを使用する産業に大きな影響を与えました。
鉄鋼・アルミニウム価格の上昇:関税によって、アメリカ国内の鉄鋼・アルミニウム価格が上昇しました。これにより、自動車、建設、製造業など、鉄鋼・アルミニウムを原材料として使用する企業のコストが増加しました。
輸入量の減少:関税によって、対象国からの鉄鋼・アルミニウム輸入量が減少しました。これにより、アメリカ国内の鉄鋼・アルミニウム産業は一時的に恩恵を受けましたが、輸入量の減少は、一部の企業にとっては原材料の調達難を引き起こす要因となりました。
貿易摩擦の激化:関税の発動は、アメリカと貿易相手国との間の貿易摩擦を激化させました。多くの国が報復関税を発動し、世界的な貿易体制に混乱をもたらしました。
国内産業への影響:鉄鋼・アルミニウム価格の上昇は、アメリカ国内の消費者物価の上昇につながり、経済全体に悪影響を及ぼしました。また、関税によって、一部の企業は生産拠点を海外に移転するなどの対応を迫られました。
結論
トランプ政権の鉄鋼・アルミニウム関税は、広範な国々を対象としたものでしたが、その後の交渉により、多くの国が適用除外となりました。しかし、中国をはじめとする一部の国に対しては関税が継続して適用され、アメリカ経済、特に鉄鋼・アルミニウムを使用する産業に大きな影響を与えました。関税は、貿易摩擦を激化させ、世界的な貿易体制に混乱をもたらす要因となりました。関税の経済効果については、専門家の間でも意見が分かれており、その影響を正確に評価することは困難です。
トランプ氏、カナダへの鉄鋼関税撤回?
トランプ政権下で課されたカナダへの鉄鋼・アルミニウム関税は、両国関係に深刻な亀裂を生じさせた。国家安全保障を理由とするこの関税は、カナダ経済に大きな打撃を与え、報復関税の発動を招き、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の交渉を複雑化させた。
トランプ政権が関税を撤回する可能性は、貿易交渉の進展と政治的な思惑が絡み合い、常に変動していた。当初、関税は強硬な交渉姿勢を示すための手段と見られていた。カナダとの貿易不均衡を是正し、USMCA交渉で有利な条件を引き出すことが目的とされた。
しかし、関税がカナダ経済に与える影響は予想以上に大きく、報復関税の発動はアメリカの農業従事者や製造業者にも悪影響を及ぼした。さらに、USMCA交渉は行き詰まり、関税が交渉の妨げになっているという認識が高まった。
一部のアメリカの政治家や経済界のリーダーは、関税の撤回を強く主張した。彼らは、関税がアメリカ経済に悪影響を与え、同盟国との関係を損ねていると訴えた。また、USMCAの早期妥結のためには、関税の撤回が不可欠であると主張した。
トランプ政権内部でも、関税に対する意見は分かれていた。強硬派は、関税を維持することでカナダに圧力をかけ続けるべきだと主張した。一方、穏健派は、関税の撤回がUSMCAの妥結を促進し、アメリカ経済にもプラスになると主張した。

トランプ大統領自身は、関税の撤回について一貫した姿勢を示さなかった。彼は、関税を交渉のカードとして使い、状況に応じて態度を変えた。一時的に関税の緩和を示唆することもあったが、最終的には強硬姿勢を維持することが多かった。
関税撤回の可能性をめぐる報道は錯綜し、カナダ政府や企業は常に状況を注視していた。関税が撤回されれば、USMCAの批准に向けた動きが加速し、両国関係も改善されると期待された。しかし、関税が維持されれば、報復関税が継続され、貿易関係の悪化が続く可能性があった。
結局、トランプ政権は2019年5月にカナダへの鉄鋼・アルミニウム関税を撤回した。これは、USMCAの批准に向けた大きな一歩となり、両国関係の改善にもつながった。しかし、関税撤回は、政治的な駆け引きや経済的な思惑が複雑に絡み合った結果であり、その過程は決して平坦ではなかった。
関税撤回の背景には、USMCAの批准を優先するというトランプ政権の戦略的な判断があった。関税がUSMCAの批准を妨げているという認識が広まり、議会からの圧力も高まっていた。また、カナダ政府が報復関税をちらつかせ、アメリカ経済への影響を訴えたことも、トランプ政権の判断に影響を与えたと考えられる。
関税撤回後、USMCAは無事に批准され、新たな貿易体制が動き出した。しかし、トランプ政権が示した保護主義的な姿勢は、同盟国との関係に大きな影響を与え、国際貿易秩序にも深い爪痕を残した。関税問題は、国家安全保障と貿易政策のバランス、そして同盟国との関係の重要性について、改めて考えさせられる出来事となった。
その後、バイデン政権はトランプ政権の政策を見直し、カナダとの関係修復に努めた。しかし、トランプ政権時代に悪化した両国関係は、完全に修復するには時間がかかると見られている。鉄鋼・アルミニウム関税の問題は、国際貿易における政治的な影響力や、同盟国との信頼関係の重要性を示す教訓として、今後も語り継がれるだろう。
日本製鉄・JFE株はなぜ強い?米関税の影響は?
日本製鉄とJFEスチール株の堅調な推移は、複数の要因が複雑に絡み合った結果です。単に「強い」と一言で片付けることはできません。まず、世界的なインフレと資源高騰の中で、鉄鋼製品の価格が上昇していることが挙げられます。需要と供給のバランスが大きく変化し、鉄鋼メーカーは価格転嫁を進め、収益を改善できています。これは、世界経済の成長、特に新興国におけるインフラ投資の拡大が背景にあります。
しかし、価格上昇だけで説明できるものではありません。両社は、積極的なコスト削減や生産性向上に取り組んでおり、それが収益率の向上に貢献しています。具体的には、省人化技術の導入や、高付加価値製品へのシフトなど、様々な努力が実を結んでいます。特に、自動車向けの高張力鋼板や、建設分野向けの特殊鋼材など、付加価値の高い製品の販売比率を高めている点が重要です。 これにより、単なる鉄鋼の量的な生産から、質の高い製品供給への転換が成功しつつあります。
米国の関税の影響も無視できません。トランプ政権下の鉄鋼関税は、当初は日本製鉄やJFEスチールに打撃を与える懸念がありました。しかし、結果的には、日本企業は、米国市場への輸出量を調整したり、現地生産を増やすなど、戦略的な対応を取ったことで、大きな損害を避けることができました。 むしろ、関税の影響で、米国国内の鉄鋼価格が高騰したことが、間接的に日本企業の収益向上に寄与した側面も否定できません。これは、グローバルな鉄鋼市場の需給構造の変化を捉え、柔軟に対応した結果と言えます。

さらに、両社は、環境規制への対応にも積極的に取り組んでいます。カーボンニュートラルに向けた技術開発や、再生可能エネルギーの活用など、持続可能な社会への貢献を目指した取り組みが、投資家の評価を高めていると考えられます。ESG投資の潮流も、両社の株価を支える要因の一つと言えるでしょう。
ただし、楽観視できる状況ばかりではありません。世界経済の減速懸念や、鉄鋼需要の減少、資源価格の変動など、不確実な要素は依然として存在します。また、中国の鉄鋼生産量増加による市場への影響も注視する必要があります。 さらに、原材料価格の高騰は、常に企業の収益性を圧迫するリスクであり、その動向を正確に予測し、適切な対応を取ることが、今後の企業業績を左右する重要なポイントとなります。
総合的に判断すると、日本製鉄とJFEスチール株の強さは、世界的な鉄鋼需要の高まり、両社の積極的な経営戦略、そして米国の関税措置に対する巧みな対応、そしてESG投資への対応といった様々な要因が複雑に絡み合った結果であると言えます。しかしながら、外部環境の不確実性も依然として高く、今後の企業業績は、これらの要因の動向に大きく左右されるでしょう。 長期的な視点に立ち、リスクとリターンのバランスを慎重に判断することが、投資家にとって重要です。