北朝鮮は米韓合同軍事演習に対し、一貫して強い反発を示している。その反応は、演習の種類、規模、そして朝鮮半島情勢によって異なり、非難声明の発表からミサイル発射実験、対話の拒否まで多岐にわたる。
演習が行われるたびに、北朝鮮はまず、公式声明を通じて演習を非難する。声明では、演習を「北侵略の予行演習」と位置づけ、朝鮮半島の緊張を高める行為だと主張する。また、演習が北朝鮮の自主権を侵害し、体制転換を狙うものだと批判することも多い。声明は、朝鮮労働党機関紙である労働新聞を通じて発表されることが一般的で、国内向けには体制の正当性を強化し、国民の団結を促す役割を果たす。国外に向けては、国際社会に向けて米韓の敵対的な意図を訴え、演習の正当性を弱体化させることを目的とする。
声明の内容は、演習の性質によって変化する。大規模な野外機動訓練の場合、声明はより強硬なものとなり、具体的な軍事的対抗措置を示唆することもある。逆に、指揮所演習のような比較的小規模な演習の場合、声明はやや抑制的になる傾向がある。しかし、どのような規模の演習であっても、北朝鮮は常に演習を「敵対行為」とみなし、批判を続ける姿勢を崩さない。
声明発表に加えて、北朝鮮は軍事的行動を通じて、米韓合同軍事演習への不満を示すことがある。最も典型的なのは、弾道ミサイル発射実験だ。演習期間中や演習直後に、短距離弾道ミサイルや中距離弾道ミサイルを発射し、米韓に対する示威行為を行う。ミサイルの射程や発射場所は、北朝鮮の政治的メッセージを伝えるために戦略的に選択される。例えば、日本海に向けてミサイルを発射することで、日本を含む周辺国に圧力をかけることもある。

ミサイル発射実験は、国際社会からの非難を招くことが多い。国連安全保障理事会は、北朝鮮の弾道ミサイル発射を禁止しており、発射実験は安保理決議違反となる。しかし、北朝鮮は安保理決議を無視し、自国の防衛力強化のためにはミサイル開発が不可欠だと主張する。
また、北朝鮮は、米韓合同軍事演習を理由に、南北対話や米朝対話を拒否することがある。北朝鮮は、対話の前提条件として、米韓が敵対的な軍事演習を中止することを要求する。これは、対話を通じて譲歩を引き出すための交渉戦略の一環と考えられる。北朝鮮は、演習の中止を対話再開の条件とすることで、米韓に対して圧力をかけ、自国の要求を受け入れさせようとする。
しかし、北朝鮮の反応は常に硬直的というわけではない。過去には、米韓が演習の規模を縮小したり、演習内容を調整したりすることで、北朝鮮との対話が実現したこともある。例えば、2018年の平昌オリンピックをきっかけに、米韓は合同軍事演習を延期し、南北対話が実現した。これは、北朝鮮が柔軟な姿勢を示すことで、外交的な解決を目指す可能性を示唆している。
北朝鮮の反応は、金正恩体制の国内政治的な思惑にも影響される。体制の安定を維持し、国民の支持を得るためには、外部からの脅威に対抗する姿勢を示す必要がある。米韓合同軍事演習は、北朝鮮にとって格好のプロパガンダ材料となり、国民の団結を促すために利用される。演習に対する強硬な姿勢は、金正恩体制の指導力を強調し、国民に安心感を与える効果がある。
米韓合同軍事演習に対する北朝鮮の反応は、単なる軍事的対抗措置にとどまらず、政治的、外交的な意味合いを持つ複雑な現象である。演習を非難する声明、ミサイル発射実験、対話の拒否といった一連の行動は、北朝鮮の対米韓政策、国内政治、そして国際社会との関係を反映している。北朝鮮の反応を理解するためには、これらの要素を総合的に考慮する必要がある。