プーチン大統領によるクルスク州奪還指示は、ロシア軍にとって極めて困難な作戦となるだろう。成功の可能性は低いと判断する。
まず、作戦内容についてだが、単純な正面攻撃は、ウクライナ軍の頑強な防御網を突破できない可能性が高い。ウクライナ軍は、クルスク州防衛にあたり、長期間にわたる戦闘経験から得られた教訓を生かし、塹壕線、地雷原、そして西側諸国から供与された高度な兵器システムを巧みに活用した堅固な防御体制を構築していると推測される。
ロシア軍は、おそらく複数の軸からの同時攻撃、もしくは奇襲作戦を試みるだろう。例えば、北東部からの攻撃でウクライナ軍の注意を逸らしつつ、南西部から比較的防御の薄い地点を突破を試みるなど、多方面からの連携攻撃が想定される。また、ミサイル攻撃や空爆による事前攻撃でウクライナ軍の戦力を削ぐ試みも予想される。しかし、これらの作戦は、ウクライナ軍の防空能力と、西側諸国からの情報提供によって効果が限定的となる可能性が高い。

さらに、ロシア軍は兵站面での大きな課題を抱えている。クルスク州は、ウクライナ軍の支配下にある地域から比較的距離が遠く、兵站線の維持が困難である。補給路はウクライナ軍の攻撃対象となりやすく、兵站の混乱は作戦の失敗に直結するリスクとなる。特に、重火器や弾薬の供給が滞れば、作戦の持続可能性は大きく損なわれる。
兵力面でもロシア軍は劣勢にあると見られる。動員令による兵員の増強は行われたものの、訓練不足や装備不足の問題は依然として深刻であり、質の高い兵士の不足は作戦の成功を阻む大きな要因となる。モチベーションの低下も深刻な問題で、長期戦による疲弊や戦死者・負傷者の増加は士気を著しく低下させていると推測される。
加えて、ウクライナ軍は、西側諸国からの軍事支援によって、質の高い兵器と情報を得ている。これにより、ロシア軍の作戦計画を事前に察知し、効果的な防御体制を構築できる可能性が高い。また、西側諸国からの軍事顧問による指導も、ウクライナ軍の戦力向上に大きく貢献しているだろう。
以上の点を考慮すると、プーチン大統領によるクルスク州奪還命令は、現実的な目標とは言い難い。ロシア軍は、莫大な人的・物的損失を被りながらも、目立った成果を上げられない可能性が高い。むしろ、この作戦は、ロシア軍のさらなる消耗と、ウクライナ軍の反撃の機会を創出する結果に繋がる可能性の方が高い。 成功の可能性は非常に低く、作戦自体がロシア軍にとって大きなリスクを伴うものと言える。 仮に限定的な成果を得たとしても、そのコストに見合うだけの戦略的価値は乏しいと考えられる。